いつか作ろうと思いつつも先延ばしにしていたがエンベデッドシステムスペシャリストの試験も終わったのでフェンシングの審判器の設計、自作に取り組もうと思う。(どこかで宣言しないと作らずに終わりそうなため逃げをなくすために書く)
今回は特に競技規則から審判器が判定を行う際の条件について中心にまとめる。
0. 概要
- 思い立った経緯
- 設計にあたっての方向性
- 競技規則から見る必要な要件
- 実装にあたっての優先順位
- 現時点で思いつく技術的な課題
- 今後に向けて
- 参考資料
1. 思い立った経緯
- 元々、電気回路やその周辺分野に興味を持っていた。
- ちょうど電気回路を扱う学科に入学した。
- 審判器がサークルにはない。
といったことから自作に挑戦しようと思い立った。
また、他の人が作成していないかを調べたが単種目のみ対応であったり、短絡検知回路がない、かなりの部分がハード実装なためルール変更により使えない部分がある、と言った点があったことも自作しかないと思った。
2. 設計にあたっての方向性
私は、サークル活動でLinuxを扱うことからUnix哲学の
これがUNIXの哲学である。
一つのことを行い、またそれをうまくやるプログラムを書け。
協調して動くプログラムを書け。
標準入出力(テキスト・ストリーム)を扱うプログラムを書け。標準入出力は普遍的インターフェースなのだ。
— ダグラス・マキルロイ、UNIXの四半世紀
UNIX哲学 – wikipedia より引用
端的に言うと 一つのことをうまくやれというところが好きである。
そのため、できるだけ書く機能ごとにモジュール化することで他の機能の開発を容易にし、影響を受けにくくする狙いがある。
次に、実際のに突きなどを判定する部分はRaspberry Piやマイコンによって制御しようと思う。
これは、突きの時間の判定は変わることもありうるためソフトウェア的に変更ができるようにしたり、他の物と組み合わせたりしてみやすくするためと、ただ単に組み込みに興味があるからである。
最後にできるならば安く作りたい、ということである。
そもそも審判器が高いから作ろうと思ったのであって高かったら意味がない。
これらを端的にまとめると
– モジュール化して簡潔に作る。
– 組み込みにチャレンジする。
– 安く作れたらいいなぁ。
という3点に集約される。
3. 競技規則から見る必要な要件
設計するにはまず第一に仕様を決定する必要がある。
それにあたり、FIE競技規則(2017年12月更新版)_用具規定(m)から読み取ることが必要となる。
そのため、一部を引用しつつ要件をまとめていく。
これの 全電気用具に関する必要条件(cf. 付属書類B) m.51 の内容については後段のモジュールで実装したほうが簡単そうなのでここでは読み飛ばす。
また、公式ではDC12Vを受電できることが定められている。
しかし、今回は内部的にはDC5Vで駆動できることを目標としてまずは設計していきたいと思う。(無理だったら素直にDC12V駆動にする)
また、ここからは用具規定付属書類 Bの内容について述べていく。
その際、回路的な要件に当てはまらないものについては読み飛ばす。
フルーレ
トゥシュを判断するための部分については以下の部分のみである。
1.中央審判装置(cf. m.51)
a) 原則
1)フルーレの回路が遮断されると装置が記録する、即ち、トゥシュが行われるとフルーレの回路に常時流れている電流が遮断されるという事である。
次に有効、無効面の判定をしているのは以下の部分である
b) 感度と不変性
1)審判装置の外の回線の抵抗が何であろうとトゥシュは、全て信号を引き起こさなければならない。接触の遮断時間はシグナルが 14 ミリセカンド(+/-1ms)で記録される事を常に確実にしなければならない。
抵抗の増加しだいで、審判装置は、下記の記録を行う:
(1)有効なトウシュのみ
(2)有効トウシュと無効トウシュを同時に
(3)無効トウシュのみ
抵抗は(1)と(2)に関しては、常に 500 オーム以下でなければならない。
2)有効トゥシュの記録は、外部抵抗が 0~500 オームである時に 13~15 ミリセカンドの接触遮断がある場合に保証されていなければならない。
ここからは回路の開放、短絡ではなく抵抗値の変化を読み取る必要がある。
しかし、
3)接触時間は有効と無効のトゥシュに関して同じである。14 ミリセカンド(+/-1ms)の接触遮断時間は、外部抵抗が 0~200 オームである時に信号が記録される事を常に確実にしなければならない。
や
2.遮断防止タイプの中央審判装置
中略
対戦相手の選手のフルーレの帰路回線の抵抗次第で、装置は、200 オームまでの有効トゥシュ及びこの値以上の有効でないトゥシュを記録しなければならない。
とあることから抵抗値については今回は200Ωを目安として設計していこうと思う。
次に短絡検知表示用の黄色ランプについては
- 選手の装具の絶縁不良がその選手のメタルジャケットと武器の間でショートを引き起こす場合でも、審判装置は、依然として有効と無効のトゥシュの両方を記録する事が可能でなければならない。
- 各々の選手の側にある黄色ランプは、選手のメタルジャケットと武器との間の抵抗が 450 オーム以下になると同時に自動的に点灯して点灯状態を維持しなければならない。
- この抵抗が 475 オーム以上である時は、黄色ランプは、絶対に点灯してはならない。
- 黄色ランプは、選手のメタルジャケットとメタルピストとの間の接触を表示する必要はない。
ということが示されている。
この中で一番難易度が高いのは一番目の項目である。この部分を実装できるかが一番の肝になりそうである。
エペ
トゥシュについては
選手の装具の絶縁不良がその選手のメタルジャケットと武器の間でショートを引き起こす場合でも、審判装置は、依然として有効と無効のトゥシュの両方を記録する事が可能でなければならない。
とあり、フルーレとは反対の条件である。
次に、トゥシュの有効判定は以下のとおりである。
c) 感度
– 外部抵抗が平常、即ち、10 オームである場合、装置は、2~10 ミリセカンドの接触時間で行われたトゥシュを記録しなければならない。
– 例外的な 100 オームの外部抵抗でも、装置は、トゥシュを記録しなければならないけれど、特定の接触時間を何も伴わないで記録しなければならない。
– 装置は、2 ミリセカンド以下の接触時間の信号を記録してはならない。d) 無記録性
– 装置は、アース回線に 100 オームの抵抗がある場合でも、接地素材(コキーユやメタルピスト)に行われたトゥシュを記録してはならない。
とあるため、フルーレよりも敏感に反応する必要がある。
サーブル
サーブルは条件が特殊で少々イメージしづらい。
以下にトゥシュ成立の要件を引用する。
a) 原則
1)装置は、サーブルの本体と相手選手のジャケットや手袋やマスクの伝導面との間の接触によって作動する。
2)これらの有効伝導面に行われたトゥシュに対して、装置は、一方の側に赤ライト、他方の側にグリーン・ライトを表示する。もし選手のサーブルのコキーユあるいは刀身がその選手自身の装具の伝導面と接触する(黄色ライトによって信号表示がある)場合は、その選手が行った有効トゥシュは、依然として記録されなければならない。
4)非伝導面に行われたトゥシュは、信号表示されてはならない。
5)装置は、選手のサーブルのコキーユ又は刀身とその選手自身の装具の伝導面との間の接触を表示する 2 個の黄色ランプを、各側に 1 個ずつ、装備していなければならない。
6)装置は、フルーレ用装置にあるものと全く同じ 2 個の白ランプを装備していなければならない。その白ランプは、音響信号に伴った絶え間のない照明によって欠陥がある選手の B と C の回路における異常な電気変化を全て表示する。
7)装置は、相手の刀身あるいはコキーユと接触している最中に鞭打ちのように刀身がしなって相手に当たって行われたトゥシュの信号表示をしてはならない。
9)2 本の刀身が触れ合う時は、その他の規則の全てが厳密に適用されなければなら
ない。
このうち7番目の条件については今回調べるまで自分がプレーしているにもかかわらず知らなかった。
また、この条件がサーブルにおいては一番難しい条件であると思う。
次に黄色ランプ関連の仕様については以下の文章が示している。
3)絶縁体の欠陥が 0 オームに下がり選手の有効な伝導面と武器の間に漏電を起こす場合、装置は、全ての取り交わされたトゥシュを記録する事が依然として可能でなければならない。絶縁体の欠陥は、抵抗が 0~450 オームの時に装具が故障している選手の側の黄色ランプの点灯によって信号表示される事とする。
欠陥がある方の選手のコキーユや刀身への有効トゥシュの記録は、もしコキーユや刀身と有効面との間の電気抵当が 250 オーム以下であれば、認められる事とする。
点灯条件はフルーレと共通であった。しかし、動作保証範囲は250Ω以下となっている。
次に白色ランプに関する文章は以下のとおりである。
7) 3 ミリセカンド±2 ミリセカンドの制御回路における遮断(250 オーム以上と規定されている)は、欠陥がある方の選手の側の白ランプの点灯によって信号表示される事とする。
とある。この部分はフルーレとは異なり回路の開放ではなく抵抗値の計測が必要となる。
4. 実装にあたっての優先順位
競技経験や回路の共通性から種目単位での優先順位は
1. フルーレ
2. サーブル
3. エペ
の順とする。
また、各回路機能については各ランプ(色,白,黄)点灯条件については最低でも単独時検出ができた段階で試作を開始できれば良いと考えている。しかし、ジャケットと剣が短絡した時に有効面突をなされた場合の挙動については割愛する可能性がある。
5. 現時点で思いつく技術的な課題
以下に実装すべき機能の内で難易度が高いと感じているものを列挙する。
– ジャケットと剣が短絡時にも正しく状態を検知すること
– コキーユやアースにトゥシュを行った際に反応しないこと
– サーブルにおいての特殊な条件
6. 今後に向けて
構想だけで終わらないようにとにかく少しでもいいから回路を組んでみる必要がある。
授業で学んだ内容だけではノイズ対策等については全く知識がないため機能だけを考えた回路を作り次第そのあたりについても情報収集する必要がある。
組み込み設計開発のいい機会になるのでなんとか完成に持って行きたいと思う。